大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和42年(行ウ)17号 判決

北九州市八幡区前田町三丁目一一番地の一二

原告

柳瀬繁

同市同区本町五丁目五二番地

被告

八幡税務署長

古賀英嗣

右指定代理人

福岡法務局訟務部長検事

上野国夫

福岡法務局法務事務官

丸山稔

福岡法務局

奈良崎隆一

福岡国税局大蔵事務官

小林淳

大神哲成

神田正慶

右当事者間の昭和四二年(行ウ)第一七号行政処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一、原告

被告が原告に対し昭和四一年七月二日付でした昭和四〇年度分の所得税および過少申告加算税賦課決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。との判決

二、被告

主文同旨の判決

第二原告の請求原因および被告の主張に対する反論

一、被告の原告に対する昭和四〇年度所得税および過少申告加算税賦課処分の経過

原告は自動車修理業を営んでいるものである。

原告は昭和四一年三月一一日昭和四〇年度総所得金額を金二〇五、六〇〇円として所得税納付のための確定申告書を提出した。

しかるに、被告は昭和四一年七月一二日付で原告の昭和四〇年度の所得金額を金八一五、〇三五円と認定し、所得税額金五六、一〇〇円、過少申告加算税額金二、八〇〇円とする旨の決定をなした。

原告は昭和四一年七月一〇日右処分を不服として被告に対して異議申立をしたが、同年一一月一一日右の異議は棄却された。

原告は更に昭和四一年一二月七日福岡国税局長に対して審査請求をなしたが、昭和四二年四月四日右請求は棄却され、同年四月一一日原告にその旨の通知があつた。

二、本件処分の違法

被告は昭和四〇年度において原告には金八一五、〇三五円の所得があつたというが、かかる事実はないから被告の本件処分は所得の認定を誤つた違法がある。すなわち、

1  昭和四〇年度において原告が取扱つた車体検査台数は四一台であつたが、この中には自家用車が二台あり、この二台の自家用車について は実費のみで、車検整備をするので計算の対象とすべきでなく、その他の三九台のうち別表6貞兼清分は金二一、〇〇〇円であり、その他の三八台の車検収入額は別表甲欄記載のとおりであり合計金八〇五、四二三円となり一台について平均収入額は金二〇、六五一円となる。右四一台の車検台数中第三者(車検依頼者)の証明があるのは別表乙欄記載の二六台でありその合計額は金五九一、一二三円となり一台平均金二二、七三五円となる。従つて原告の所得はいずれにしろ被告の推計による前記所得額に達しない。

2  課税所得の算定にあたり仕入経費等諸経費を控除すべきである。

3  また、被告が推計の基礎にしたという福岡県小型自動車整備振興会の協定価額なるものはないし、被告が調査のため同振興会を訪れたこともない。

三、以上のとおり、原告には被告主張の所得金額はなく、本件処分は違法であるからその取消しを求める。

第三被告の答弁および主張

一、原告の請求原因事実(本件処分の経過)中、原告主張の総所得金額を争い、その余の事実を認める。但し、原告主張の異議申立日は昭和四一年八月一二日である。

二、本件処分の適法

1  原告は昭和四一年三月一一日課税標準〇円税額〇円なる旨の確定申告をなした。しかし、右申告は過少の疑いがあつたので、昭和四一年六月頃被告の経営する八幡税務署の調査官が原告の事業所に臨み所得額を裏付ける帳薄等の提出を求めたが、原告は帳薄等を一切提出せず、更に調査官の質問に対しても十分な答弁をなさなかつた。

そこで、被告は原告と同地域内の同業者の営業実績などを基礎として原告の課税所得を推計し、課税所得金四五五、〇〇〇円、税額本税金五六、一〇〇円、過少申告加算税を金二、八〇〇円とする、本件更正に及んだものである。ところで、原告の課税所得は次のとおり少なくとも金六二七、四〇〇円に及ぶことが推計されるので、右金額の範囲内で行なつた本件処分は適法であるといわなければならない。

2  推計によらねばならなかつた理由

原告は自己の営業に関する売上帳、仕入帳、経費帳、請求書、領収証等の帳薄書類を一切保持せず、ただ入出金伝票と分解整備記録簿控のみを所持していた。この点について、原告は現に所持しているもの以外の帳簿書類は破棄したと申し立て被告の調査に際してもこれを呈示しなかつた。ところで、所得税の課税標準等の確定申告による所得金額の計算の裏付けとなる証拠書類を破棄することは常識からは全く考えられないのみならず、破棄したことが事実であるとすれば申告書に記載された所得金額が真実に反するものであることを糊塗するための手段であると推断されてもやむをえないところである。

更に、残存していた入出金伝票についても作成の基礎となる証拠書類が保存されていないためその真偽の検討はできず、しかも原告は右入出金伝票についても破つたり焼いたりするのを忘れていたと申し立てており、その点からも信馮性はないものと認められた。

なお、分解整備記録簿控は自動車の車検を受けるためその整備に関する事項が記号をもつて記載されているにすぎないため、この帳簿からは車検収入代金の実額は把握できず、更に車の修理に関する収入は右帳簿とは関係がないため、修理収入代金の実額も把握できなかつた。

このため原告の営業収入につき、その実額調査による所得金額の算定は不可能であり、推計課税の方法によらざるを得なかつたものである。

3  車検収入金額推計の合理性について

被告は推計の基礎として原告が所持していた分解整備記録簿によることにした。ところで、分解整備記録簿には対象自動車につき、修理、取替、分解点検等の記号が記入されているのみで金額は記入されていない。このため被告は原告が所持していた分解整備記録簿三五台分の車検料金について福岡県小型自動車整備振興会の意見を微する一方、同業者の意見を聞き、標準的な料金の算定をした。

その算定方法としては、当時同業者間に周知され、かつ料金算定の目安となつていた「標準作業時間表」、「標準料金表」を基準として原告が対象自動車につき、その都度整備個所、整備内容等を記載した分解整備記録簿の写を検討して車検代金を算出した。この結果、三五台分の車検収入金額は金、一、三〇七、八〇〇円となり、これより相当と認められる値引率一五パーセントを考慮すれば金一、一一一、六三〇円となり、一台当りは金三〇、八七〇円となる。そこで、これに総車検台数四一台を乗じ、係争年分の車検総収入金額は金一、二六五、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)と推計された。

更に、被告が推計した右車検収入金額が妥当であるかどうかを検討するため北九州市で自動車整備に二〇数年の経験を有する訴外石川勝已に原告の分解整備記録簿記載の三五台分について車検収入の算定を依頼した。同人は前述の標準料金表等を基準とし多年の修理見積りの経験を生かして一般的に同業者が請求すると認められる車検料金を算定した。その結果は三五台分で別表成欄合計額記載の金一、一五九、三五〇円となり、一台当りは金三三、一二四円となるので、この金額に総車検台数四一台を乗ずれば車検総収入金額は金一、三五八、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)と算定されて、被告の推計した車検収入金額金一、二六五、〇〇〇円を上廻ることになり、被告の推計が妥当になされていることを裏付けるものである。

なお、別表乙欄記載の支払証明二六件のうち、北九州市八幡区において所在の確認された一八件について申立書、請求書、領収証、小切手帳、経費帳等により調査した別表丙欄記載の結果から判断しても被告の推計した車検収入金額が妥当であることは明らかである。すなわち、原告に対する車検依頼者の所持していた帳簿、書類により調査した一四台分の車検収入金額は別表丙欄合計額金四五六、〇六三円となつているので、一台当りの車検収入は金三二、五七六円と算定され、被告の推計した一台当り車検収入金三〇、八七〇円に近似した金額を示しているのでこの点からも被告の推計は妥当なものと認められる。

4  総収入金額 金三、一六二、五〇〇円

総収入金額に対する車検収入金額の割合は原告が所持していた入出金伝票の総収入金額が金一、六九五、三二〇円で内車検収入金額が金七〇万円だつたので四〇パーセントと認め、3の車検収入金額金一、二六五、〇〇〇円を右割合にあてはめ、総収入金額金三、一六二、五〇〇円を算出した。

5  算出所得金額

4の総収入金額金三、一六二、五〇〇円に原告と同地域の同業者の所得率五一パーセントを適用して算出した。

6  標準外経費 金六二五、四七五円

雇人給料 合計金六二五、四七五円

飯干信雄 金二七二、一五三円

柳瀬時安 金二一一、三〇八円

興梠宗伯 金一四二、〇一四円

7  総所得金額 金九八七、四〇〇円(5-6)

8  諸控除金額 金三六〇、〇〇〇円

配偶者控除 金一一七、五〇〇円

扶養控除 金一一五、〇〇〇円

基礎控除 金一二七、五〇〇円

9  課税所得金額 金六二七、四〇〇円(7-8)

第四証拠

一、原告

1  甲第一号証の一、二、同第二ないし第八号証、同第九号証の一ないし二六、同第一〇号証の一ないし一九、同第一号証を提出。

2  証人御厨徳次、同下川英治、同朴佑先、同高田信義、同清水明人の各証言、原告本人尋問の結果援用。

3  乙第一号証、同第六、第七号証の各一、二、同第八号証の成立は認め、同第二号証の一ないし三五中の鉛筆書部分の成立を認め、その余の部分については成立および原本の存在も認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二、被告

1  乙第一号証、同第二号証の一ないし三五、同第三、第四号証、同第五号証の一ないし六、同第六、第七号証の各一、二、同第八号証、同第九号証の一ないし三五を提出。

2  証人徳久登美路(第一、二回)、同石川勝已の各証言を援用。

3  甲第一号証の一、二、同第三ないし第五号証、同第七号証、同第一一号証の成立は認め、その余の甲号各証の成立は不知。

理由

二、本件処分の経過

原告が自動車修理業を営んでおり、昭和四一年三月一一日昭和四〇年度の総所得金額を金二〇五、六〇〇円として所得税納付のための確定申告書を提出したこと、しかるに被告は昭和四一年七月一二日付で原告の昭和四〇年度における所得金額を金八一五、〇三五円と認定し、所得税額金五六、一〇〇円、過少申告加算税額金二、八〇〇円とする旨の決定をしたこと、は当事者間に争いなく、成立に争いのない甲第七号証によれば、原告は所得金額のうち営業所得として金二〇五、六〇〇円を申告し、これから差し引かれる金額として配偶者控除金一一七、五〇〇円、扶養控除金一一五、〇〇〇円基礎控除金一二七、五〇〇円、合計金三六万円となるので、結局課税される所得金額なしとして申告したのに対し、被告は原告の営業所得を金八一五、〇三五円と更正した結果、右と同額の控除をしてもなお課税される所得金額(総所得)が金四五五、〇〇〇円と更正されることになり、前記税額が算出されたことを認めることができる。そして、原告がこれに対し異議申立をしたが同年一一月一一日右の異議が棄却されたこと、そこで原告は更に同年一二月七日福岡国税局長に対して審査請求をなしたが、昭和四二年四月四日右請求は棄却され、同年四月一一日原告にその旨の通知があつたことは当事者間に争いがない。

二、原告の所得

1  成立に争いのない乙第一号証、同第六、第七号証の各一、二、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる甲第二号証、同第八号証、同第一〇号証の一ないし一九に証人徳久登美路の証言(第一、二回)、原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告の前記申告については、八幡税務署員の調査を受けることになつたが、その際原告は、同署員に対し前記申告は売上帳、仕入帳、経費帳をもとに損益計算書を作成し、これをもとになしたものであるところ、申告の際同署窓口で同署員の応待振りが悪かつたことに腹を立てて右帳簿類は破り捨てたと言つて、僅かに残つた入出金伝票と分解整備記録簿(その一部は甲第一〇号証の一ないし一九)だけを呈示したので、同署員が右記録簿に記載された顧客の住所氏名を控えて帰つた結果、前記更正処分がなされ、次いで審査請求をした際も福岡国税局協議団の徳久登美路が調査のため訪れたとき同様の書類しか呈示しなかつたこと、同人の調査によるも右記録簿は車検のための点検修理の内容を記載したに止り、その代金まで確定することはできず、入出金伝票もその作成の基礎となる証拠書類が保存されていないため、その真偽の検討ができずに、やむなく右記録簿をもとに同業者を調査した結果、前記所得金額を推計したことが認められる。

そこで、原告の所得が右の伝票と記録簿だけから算定することができたかどうかということになるが、原告本人尋問の結果には、右伝票に記載された金額の合計が原告の昭和四〇年度のすべての収入金額であつて、右記録簿に記載した車検のための点検修理は福岡県小型自動整備振興会で決めた協定価格表より三割方安くしているし、小さな手間賃等はサービスしているので、右協定価格表と記録簿を引き合わせてもその代金は算出されないし、実際には記録簿の現存しないのもあるとか、例えば請求書(乙第六号証の一、二)と領収証(同第七号証の一、二)のように金額の合致しない分については入金額が代金額であるとか、あるいは証拠書類たるべきものがあつて原告の収入金額に算入されないのは伝票洩れであると述べたうえ、さらに損益計算書(その写は甲第二号証)と原告作成の車検一覧表(第八号証)の入金額の差異は売掛金を含めたかどうかであると言いながら一方では売掛分はすでに破棄した売掛帳に記載して伝票を切らないとか、あるいは車検収入のほかに一般修理、雑収入があつてもすべて入金伝票によるが、仕訳日記帳を作成していなくても、記録簿の車検の日付と入金の日付、記録簿の内容、伝票の金額だけから、車検収入とその他の収入との区別は原告が見れば分るという。供述部分がある。このことは要するに入金伝票に基いて原告作成した損益計算書の記載の正確性を担保するものは原告本人の記億だけであつて、原告以外の者がこれを検証しようとしても、その資料や方法が全くないということになる。しかも、原告の記億が必ずしも正確でない点が見受けられる。

右事実によれば、被告において実額調査による原告の所得金額の算定は不可能というべく、結局推計課税の方法によるほかないといわなければならない。

2  車検収入

原告が昭和四〇年度に四一台の自動車につき車検のため整備をしたことは当事者間に争いなく、成立に争いのない乙第二号証の一ないし三五、徳久登美路の証言(第一、二回)によつて真正に成立したと認められる乙第三号証に右証言を綜合すると、徳久登美路が原告の所得の調査にあたり原告の所持していた分解整備記録簿から車検収入金を算定しようとし自動車修理業者の標準作業時間表を調査し、これを参考にして一時間あたりの労賃を金六〇〇円として協定価額(乙第三号証)を求め、これに同業者の意見を聞き車種、年式等を加味し、分解整備記録簿にある三五台分の車検収入を算定したのが別表丁欄の記載の通りの結果になること、通常自動車修理業者が車検代金を値引する場合値引率は一割か一割五分程度であることが認められるそうすると、原告の車検収入は合計金一、二五七、四〇〇円になり、これを一五パーセント値引きしたとすれば、金一、〇六八、七九〇円(円未満切捨。以下同)となる。なお一台の平均車検収入額は金三〇、五三六円となる。

ところで、甲第八号証には原告の昭和四〇年度の車検収入金額として別表甲欄の通りの記載があり、甲第九号証の一ないし二六には原告の同年度の車検収入のうち車検依頼者の証明あるものとして別表乙欄の通りの記載があり、証人下川英治、同朴佑先、同高田信義、同清水明人の各証言中には右記載に符合する部分があり、また原告本人尋問の結果中には右記載に符合する部分があるが、同時に右各証言や本人尋問によれば、この中にはすでに払い終つてかなりの期間を経過しているので、確める資料もないまま原告の示した金額を承認したに過ぎないのも含まれていることが認められるので、これをそのまま採ることはできない。このほか、右本人尋問の結果中被告が証拠として提出した分解整備記録簿三五枚(乙第二号証の一ないし三五)のなかに原本からの原告に不利な写し誤りがあること、原告は車検収入代金を基準より二割ないし三割値引きしていたこととの供述部分がある。

しかし、証人石川勝己の証言により真正に成立したと認められる甲第九号証の一ないし三五および右証言によれば自動車修理業者である石川勝己は国税庁から原告が作成した分解整備記録簿の写三五台分(乙第二号証の一ないし三五)を逆算してもらえないかと頼まれ、自動車整備技術委員会発行の標準料金表をもとに走行キロ、外貌等わからない点もあつたがその他いろんな要素を考慮して平均的な線で逆算したところ、別表戌欄記載の通りとなつたことが認められるので、この事実から一台平均の車検収入金額を求めると金三三、一二四円となるので、福岡国税局の推計した一台平均の車検収入金額金三〇、五三六円を上回ることになるし、原告が写し誤りがある分として主帳している分解整備記録簿一九枚(甲第九号証の一ないし一九)を乙第二号証の当該分解整備記録簿に引きあわせてみると甲第一〇号証の六ないし一〇、同号証の一二、同号証の一三、同号証の一五、同号証の一七、ないし一九の一一枚分は全く同じ記載であつて、写し誤りと思われるものは見当らず、同号証の一一、同号証の一四、同号証の一六の三枚分は印のつける所が各一ヶ所違い、同号証の一ないし五の五枚分には乙号証の方に一五ヶ所分解点検、修理の印が多く看取できるが、証人徳久登美路の証言(第一、二回)によれば、徳久登美路は分解整備記録簿を写すには十分の注意を払つており、車検収入の算定の際には自動車修理業者の意見を聞き、単に協定価額をあてはめるだけでなく、修理、点検個所がほぼ重なりあうようなとき必ずしも考慮する必要はないとの同業者の意見であつたが控除して控え目な料金算定をしたことが認められるうえ、成立に争いのない乙第六、第七号証の各一、二を綜合すると別表27の棟加藤登国男の車検代金額は金五四、五三〇円であることがうかがわれ、これらの事実に照らすと前記記載ないし供述部分も前記認定を動かすに足りない。

そうすると、昭和四〇年度において原告が取扱つた車検台数が四一台であることは当事者間に争いがないので、同年度の車検収入合計額は金一、二五一、九七六円と認めるべきである。

3  総収入金額

証人徳久登美路の証言(第一、二回)により真正に成立したと認められる乙第四号証に右証言、原告本人尋問の結果を綜合すると前記徳久は調査の際原告の所持していた入金伝票に車検収入とか一般収入とかの区別がなかつたので、原告の記憶に基づいてその入金伝票の中から車検収入の伝票を選び分けさせたところ入金伝票記載の合計額金一、六九五、三二〇円のうち金七〇万円が車検収入であつたことが認められ右徳久登美路の証言中右認定に反する部分は信用しない。従つて、右総収入に対する車検収入の割合は四一、二パーセント(小数点二位以下切捨)となるから車検収入を前示金一、二五一、九七六円と右割合により総収入を求めると金三、〇三八、七七六円となる。

4  総所得金額

総収入金額から仕入原価と人件費およびそれ以外の経費を控除したものが総所得金額であるところ、証人徳久登美路の証言(第一、二回)によれば、原告は入出金伝票を所持するのみで仕入原価と人件費以外の経費は不明なこと、徳久登美路が原告の所得を調査した当時、税務署の方で推計課税のため小倉、八幡、門司の八軒の自動車修理業を調査して算出した平均所得率(パーセント)が五一パーセントであつたことを認めることができるので、総収入金額に対する仕入原価と人件費以外の経費の割合は四九パーセントとなり、原告の前示総収入金額金三、〇三八、七七六円に右四九パーセントを適用して得た金一、四八九、〇〇〇円に原告の雇人三名の人件費合計額金六二五、七四五円(この点は原告が明らかに争わないから自白したものとみなす)を加えると金二、一一四、七四五円となり、これを原告の総収入金額から控除し、総所得金額を求めると金九二四〇三一円となる。

5  課税所得金額

成立に争いのない甲第七号証、証人徳久登美路の証言(第一回)を綜合すると、原告には控除対象配偶者と扶養家族が二人いることが認められるので諸控除金額が金三六万円となることが明らかである。従つて、課税所得金額は金五六四、〇三一円となる。

三、以上のとおり、原告の昭和四〇年度の課税所得金額は金五六四、〇三一円となるところ、被告は前示のように課税所得金四五五、〇〇〇円と算定したのであるから、被告の所得金額の算定は相当であり、これに基く所得税額および過少申告加算税の算定も誤りなく正当であるといわざるを得ない。従つて、原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木本栖雄 裁判官 富田郁郎 裁判官 横田勝年)

別表

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例